経営行動科学学会での研究発表

オンライン開催となった経営行動科学学会第25回年次大会にて、「タレントマネジメントの意図と実践に関する認知ギャップが従業員にもたらす影響」と題した研究発表を行いました。なお、この研究はJSPS科研費19K01819および20K13607の助成を受けたものです。

この研究発表では、欧米圏を中心に論じられる戦略的タレントマネジメント(STM)が企業内で展開されているか否かを、(1) 経営陣や人事部門の意図をあらわす「タレントマネジメント哲学」と、(2) 実際に従業員が受け取る実践をあらわす「タレントマネジメント施策」の2つに関する従業員の知覚から特定することを試みました。そのうえで、 意図と実践に関する知覚の合致(または乖離)が、従業員の心理的態度(例:ストレス、キャリア焦燥感、ワーク・エンゲイジメント)にどのような影響を及ぼしているのかを検討しました。

分析結果の一部からは、意図と実践をともにSTMであると知覚していることが、質的な業務負担感を高めるというネガティブな影響と、仕事上の役割の理解が促されるというポジティブな影響の双方を持っていることが示唆されました。TMが「諸刃の剣 (double-edged sword)」であるという先行研究の指摘を支持する興味深い結果となっています。これは、キーポジションを起点とした能力やキャリアの開発が、企業内で重視されること(≒従業員に期待すること)を明確化すると同時に、それを充足するための行動の遂行に対するプレッシャーを高めていると解釈することができるのではないかと考えています。

この点については、研究手法をもっと精緻化したうえで、今後さらに掘り下げていく予定です。

柿沼 英樹
柿沼 英樹

流通科学大学商学部教授 | 人的資源管理論専攻
タレントマネジメントや雇用主ブランディングに関する研究に取り組んでいます。